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罵声も…「カルト」「過激派」非難応酬 米国の“さびた工業地帯”

混沌ラストベルト~米大統領選直前ルポ①

 11月3日の米大統領選まで残り1カ月を切った。中西部から東部にまたがるラストベルト(さびた工業地帯)は、前回大統領選で共和党候補トランプ氏の勝利の原動力となった。あれから4年。今回はどんな風が吹くのか。激戦の地を車で横断し、有権者の心境を探った。

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 9月15日、中西部ウィスコンシン州中部に位置する人口約13万人のマラソン郡。高速道路を降りた先の交差点に、トランプ大統領の名前が記された旗を勢いよく振る女性(55)がいた。

 人工妊娠中絶反対を訴えるトランプ氏を前回大統領選から支持し、この日は長男ジュニア氏が登壇した選挙集会に一番乗りした。「大統領が中国からの入国規制をしたおかげで、新型コロナウイルスから多くの命が救われた」。女性は誇らしげな表情でトランプ政権の成果を次々に挙げた。

 ところが、交差点の反対側に立っていた男性について尋ねた途端、顔を曇らせた。「あれは民主党支持者。さっきここに来たけど言葉は交わさなかった」

 その男性(56)は、通りかかる車に「共和党不支持」のメッセージを掲げ、通行人に「トランプに投票できない理由」を列挙した紙を配っていた。話を聞くと男性は35年間、共和党候補に投票してきたという。

 「トランプはコロナ禍を軽視した」。そう憤る男性は誰にも身元を明かさず、サングラスを常に掛けている。州南部の街ケノーシャで8月、警官による黒人暴行問題などに抗議するデモ隊に向けて少年が発砲し、2人が死亡する事件が発生。「銃で撃たれるかもしれない」と恐れていた。

 「ふざけるな」「帰れ」。抗議に気付き、目の前で止まる車の中からたびたび罵声を浴びせられながらも、男性は黙々と活動を続けた。

罵声も…「カルト」「過激派」非難応酬 米国の“さびた工業地帯”

★★

 「トランプがつくり出すカオス(混乱)で、地域の分断は本当に深刻だ」。かつて製紙業で栄えた郡の中心都市ウォーソー。元警官で、民主党の元地方議員のドナ・サイデルさん(70)は、バイデン前副大統領支持の看板を掲げる自宅前でため息をついた。

 ウォーソーでは15年ほど前まで民主党が強かったが、徐々に共和党支持者が増え、今や選挙ごとに勝利政党が変わる「揺れる街」だ。前回選挙では製造業重視をアピールしたトランプ氏が郡全体で圧勝した。

 基幹産業の製紙業が衰退し、低賃金の職にしかありつけない労働者は少なくない。郊外の農地では朝鮮ニンジンの生産が盛んだが、中国との貿易戦争のあおりで輸出は大幅に減った。「それでもトランプの政策は正しいと信じ込んでいる。私たちの常識が通用しない」

 9月上旬、トランプ支持者の元看護師カーラ・カーツさん(72)は夫と出席した夕食会で「反トランプ」のある男性から「カルト信者」とののしられた。

 なぜ彼を支持することがカルトなのか-。規制緩和を進めたトランプ政権下で、州内の失業率は一時3%台前半にまで改善。多国間の貿易協定を見直したことは、地元経済に有益だと信じる。美辞麗句を並び立てる既存政治家と違い、トランプ氏は「思っていることをはっきり口にして、政治に透明性をもたらした」と高く評価する。

 全土に広がる抗議デモでは一部が暴徒化。各地で商店などへの放火や略奪が多発する。「テロリストのような暴力は許されない」。民主党支持者の中に、こうした暴動を黙認する人がいると信じて疑わない。

 「ひたすらトランプを嫌う過激派」。カーツさんの友人は、バイデン氏支持のリベラル層をこう呼ぶ。

★★

 州最大の都市ミルウォーキー郊外で民泊を営むローラ・バービーさん(55)は、過去の大統領選で共和、民主両党の候補に投票したことのある「揺れる有権者」。前回と同様、今回もトランプ氏支持に傾くものの、新型コロナ禍で友人を含め多くの人が失業した現状に失望し、決めかねている。

 だが、そんな悩みはごく一部の親友にしか打ち明けられない。「親トランプ」「反トランプ」の双方が自分たちこそ正しいと信じ、互いにいがみ合う不寛容さ。深刻化する国民間の分断は、バービーさんが住む閑静な住宅街にも深い影を落とす。

 最近、近所を散歩すると、トランプ氏支持の看板に交じって、バイデン氏の看板も目に付くようになった。とはいえ、バービーさんは投票先を決めても看板を置くつもりはない。「攻撃の対象になりたくない」

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