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【滝上町】「かっけー」で見えた、林業の入口。憧れのハーベスタに乗って | 北海道の人、暮らし、仕事。 くらしごと

今年度始動した「森の魅力発信し隊」!若手林業・木材産業従事者を中心とした仲間が集い、日々情報交換をして盛り上がっています。そんな「森の魅力発信し隊」のメンバーについて、ご紹介する記事の第4弾です!

「森の魅力発信し隊」についてはこちらをご覧ください

パトカーや消防車、ブルドーザー...。「はたらくクルマ」に夢中になる子どもは多いですよね。「かっこいい!」という純粋な憧れから、その仕事にまで興味を向けることもよくあります。森で活躍する迫力満点の林業機械に「かっけー!」と惚れ、林業の世界に飛び込んだ西田健太さんも、その1人かもしれません。愛機の前で見せる笑顔には、屈託がありません。

西田さんが暮らすのは、芝ざくらで有名な滝上町。四方を山に囲まれ、町の森林面積は88%です。町の中心部にも木材を集積する土場(どば)や加工場があり、針葉樹の爽やかな香りが漂います。

町内の林業事業体「真貝(しんかい)林工」の社員として働く西田さんを、今回取材で訪ねました。急峻な斜面にへばりつくような、曲がりくねった林道を20分走って、国有林の人工林を間伐する作業現場へ案内してくれました。

坂道の途中で車を止めた西田さんは、会社の先輩たちにご挨拶。皆さんは斜面で伐倒したトドマツを林業機械で引き上げたり、チェーンソーで切ったりしていました。西田さんは同僚の皆さんとグータッチした後、自分の仕事場を見せてくれました。

トラックでは登れなさそうな、さらに急な斜面には、1台のハーベスタがありました。木を切り、枝を払い、丸太にする「玉切り」をこなす、パワフルな機械です。これが、西田さんを林業にいざなうきっかけになった「はたらくクルマ」です。

農業高校の授業で一目惚れ。勢いで滝上町へ

本体部分はよく見かける黄色でしたが、目を引くのは先端のアーム部分。まるで芝ざくらを思わせる、鮮やかなピンク色です。コクピットに乗り込んだ西田さん。伐倒してあったトドマツを、アームを回して軽々とつかみ、スルスルと水平移動させ、一定の長さに切断していきます。自分の腕を動かすかのように、一瞬のもたつきもなく、瞬時に積み上げていきます。豪快にして繊細な動きに、思わず見とれてしまいます。

「これに乗っていたら、かっこよく見える。いいな、乗ってみたい!」

西田さんがそんな憧れを抱いたのは、岩見沢農業高校の1年生の時、授業で林業現場を見学した時でした。その迫力にたちまち魅了され、コクピットにびっしりと並ぶボタンに目を輝かせ、「林業っていいな」と直感しました。

切断後に木が地面に落ちる「ドスン」という音で、とても重たいものだった気づかされるくらい軽々と丸太を扱っていました。

もともと高校に入る時は、卒業課題で庭を1つ造ることを「かっけー」と思い、環境造園科を志望していました。ただ希望者が多く、森林科学科へ。このシフトチェンジが、今に至る全ての始まりでした。

高校1年生の冬には授業で「真貝林工」を見学。「ハーベスタ、乗りたい人いる?」と現会長に聞かれ、すぐ手を挙げたといいます。まさに花形の仕事。憧れが募りました。幼いころから、道路工事の現場にある機械に見入っていた西田さん。チェーンソーよりも「はたらくクルマ」へ興味を示したのは、自然なことでした。

高校2年の冬には真貝林工で本格的なインターンシップに参加し、実業務を1週間体験。滞在中は若い社員の自宅で寝泊りさせてもらい、まるで友達のように接してくれたといいます。

当時、卒業後はホテル関係への就職も選択肢でしたが、このインターンが進路を決める大きなきっかけに。「実際に仕事をして、機械に乗せてもらって。結局、やりたい仕事をしないとな、と思いました。地元の岩見沢から滝上は遠いですが、先を見据えてとか、そんな深いことは考えませんでした。あれがない、これが足りないと考えてしまうのではなく、若さゆえの勢いというか...そういうのは大事ですね」と笑います。

こちらがこの記事の主役、西田健太さんです。

周りの気持ちを知る。部活動で培った心構え

ハーベスタに乗る自分の姿をイメージして、真貝林工に入社した西田さん。もちろん、初めから機械の操作を任されるわけではありませんでした。

夏冬関係なくチェーンソーで切り、夏は草刈り機で地面をきれいにして植え付けるなど、3年ほどさまざまな仕事を経験しました。「ハーベスタに乗るために、やるしかないという気持ちでした」と振り返ります。ただ体力には自信がありました。

昔から野球に打ち込み、中高の部活でキャプテンを、そして今は地域の社会人野球チームでもキャプテンを担うキャッチャーの西田さんは、普段から鍛えられていました。

それに加え、ハーベスタに乗る以外の仕事も大切にする理由がありました。部活動で身についた、ある心構えがあるからです。

「部活で1年生の意見が通りにくいのは、あまり経験していないから。上級生になると発言力が増しますが、十分な経験のない上級生の言うことに従うのは、下級生でも嫌がります」

確かに、部活を仕事に置き換えても通じます。社内で現場を回す立場になっても、幅広い経験を積んでいるのは、説得力と信頼につながります。スポーツも仕事も、自分の前後左右には、仲間の存在があります。

取材当日もチェーンソー作業や、ワイヤーを用いた集材など、同僚の方々が作業をされていました。

「ハーベスタでの作業の前段階には、集材という力仕事があり、これらは密接につながっています。その仕事をする人の気持ちが分からないと、お互いに誇りが持てないし、うまくいきません。それを考えずに誰かが楽をすれば、全体が詰まります」

【滝上町】「かっけー」で見えた、林業の入口。憧れのハーベスタに乗って | 北海道の人、暮らし、仕事。 くらしごと

眞貝社長も、「社内でも『林業は前後の人と関わる仕事だ』と常々言っています。機械に乗っていると、どうしても1人仕事が多いのですが、人から木材を受け継いで、人に渡すことに変わりありません。自分のペースだけでやってほしくないんです」と語ります。

その意味で、西田さんの仕事ぶりについて「このことをよく気にかけてくれ、周囲への気配りができるので、助かっています。高校への出前授業ではリアルな先輩として、若い人に仕事の魅力を伝えてくれてもいます」と太鼓判を押します。

西田さんの肩に手をかけるのが、代表取締役社長の眞貝真さんです。

いざ特訓。コンパスで円を描き、目を凝らす

入社して4年目、ついにハーベスタ乗りという憧れの仕事を任されるようになりました。

「うれしくて、めちゃくちゃ興奮しました。でも、材を運び出す眞貝社長からは無線で、めちゃくちゃ怒られました」と苦笑いします。「長さが違う」「腐った材が混じっている」「径(太さ)が合っていない」と指摘される日々。もっと精度を高め、自分の腕を動かすようにハーベスタを操れるようになろうと、ある特訓を始めました。

「紙にコンパスで円を描いて機械に貼り、少し離れて見て、何センチかを言い当てられるようにしました」

森の中では実際に木を見て、太さをイメージします。会社の事務所にいる時は眞貝社長と、電柱の太さを目測できるように訓練しました。

西田さんによると、木の太さを測るセンサーはハーベスタに付いていますが、木は1本ずつ違うため万能ではなく、最後は人間の目が頼りです。また、真っすぐな木か曲がっているか、さらに径によっても「パルプ用」「製材用」と用途が変わってくるため、トラックに積載する前に正確に仕分けるべく、ひたすら目を凝らしました。

入社して11年目になり、中堅の域に入った西田さん。

「経験年数が上になって、現場を回せるようになると、もっと面白くなりそうです。かっこよく見えますし(笑)。今はハーベスタだけですが、長くいると違う仕事にも関われます。山以外にも、高校での出前授業にも行かせてもらっているので、そういうのは好きですね」

経験を重ねるほどに、視野もつながりも広がってきました。

2021年からは、道庁の林業木材課が事務局となっている「森の魅力発信し隊」のメンバーに。「機械や仕事への思い、こだわりを聞きたいです。でも真面目な話よりも、遊びまじりでお酒でも飲みながら本音を知りたいですね」と言います。同世代の民間の林業関係者は滝上の周辺にほとんどいないそうで、貴重なネットワークです。

きっかけは何でも。林業を底上げする若い力

かねてから真貝林工は、中途で若い人を積極的に採用してきました。新卒入社は西田さんが第一号となり、西田さんが入社してからは、眞貝社長と一緒に高校を訪問するなどして仕事や働き方の魅力を伝え、年の近い後輩が新卒で入社するようになりました。

西田さんが入社した時は多くの社員が30代、10年以上たった今でも最年長で50代という若さです。会長や社長を筆頭に、会社全体に柔らかい雰囲気があるのも、若い人が入りやすい理由の1つだとか。

多くはない社員で、広大な森を管理するため、1人1人の役割は大きくなり、やりがいに直結します。西田さんが「もし自分が機械を降りて、未経験の違う人に代わると、数年単位で実績は上がらなくなります」と言うほど、個人の力が求められています。

高齢化が進む林業業界ですが、お若い方が多いのが真貝林工の特徴の一つです。

「特に若い人は貴重な存在です。いないと、林業自体が育たず底上げができませんし、盛り上がりません」

高校での出前授業では、眞貝真社長が自ら作った動画を見せているといいます。「機械を見せたら、生徒さんの食いつきがいいです。きっかけは何でもいいので、興味を持ってもらいたいですね」と声を弾ませます。

さらに若い世代に伝えたい思いもあります。

「林業では、地元から離れてIターンで就職するケースが多いです。その環境で早く成長するためには、しっかり力と発言力をつけて、やりたいことを見つけて宣言した方が良いと思います。やりたいことばかり言っても、会社が見てくれないと、何にもなりません。最初は我慢することがあっても、経験を蓄積して自分の価値を高めるのが大事だと思います」

また、会社の規模が大きくなく、社内に若い人が多いほど、早くから機械に乗れるというメリットもあるといいます。西田さんは「自分なりのビジョンを持っているなら、やりたい事をやらせてくれる事業体を選ぶといいですね」とアドバイスをくれました。

自らが歩んできた林業の道を、若い世代にもきちんと伝えたいという強い思いを西田さんから感じました。

人とつながる暮らしと、「人間らしい仕事」

現在の真貝林工には、滝上町出身の社員はほぼいないといいます。西田さんも若くして、人口2,500人ほどの小さな町に移住した1人。高校を卒業したての当時、戸惑いや不安はなかったのでしょうか。

「慣れや野球のおかげというのもありますが、すぐに知り合いができました。遊ぶところはないですが、1人でいる時間は少ないし、人とのつながりが深いのが自分には合っていますね。都会と田舎では人の密度が違いますが、人が多い=関わりが多い、ということは決してありません。東京にいても、1人だと物足りません」

大きな買い物は往復80kmほどという紋別市、時には同じく200kmの旭川市へ。クルマとドライブが好きというのもあって、年間2~3万kmは愛車で走り回ります。

平日夜は社会人野球の練習のほか、地元の小学生にも教えています。休日はドライブでほぼ家を空けていて、公私ともに充実した暮らしです。

かつて機械が故障し、修理に来たメーカーの担当者に「一番人間らしい仕事をしていますよね」と言われたのが印象に残っているといいます。林業は朝は早いものの夕方には上がり、自分の時間がしっかり持てる。生活リズムを整えやすい働き方が西田さんには合っているようです。

西田さんが森の中で、同僚と交わしていたグータッチ。取材していて、「こんな山奥でもコロナ対策を徹底しているなんて...」と勝手に驚いていましたが、聞くと実は、これも「かっけー」から生まれたルーティンでした。

高校2年の時、海難救助の最前線にいる潜水士の奮闘を描き、ドラマ化もされた「海猿」の映画を見て「かっけー」と思い、独自のコミュニケーションとして続けているといいます。野球を教えている小学生も、自然とやってくれるようになったといいます。

仲間との結束を確かめるかのように行われるそのポーズも、ハーベスタに乗る目標をかなえたことも、野球やクルマを楽しみ抜く暮らしも、全部が「かっけー」と感じずにはいられませんでした。

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