オーディオ → 最上位ウォークマン「NW-WM1ZM2 / WM1AM2」が飛躍の第二世代となった理由(本田雅一)

最上位ウォークマン「NW-WM1ZM2 / WM1AM2」が飛躍の第二世代となった理由(本田雅一)

ソニーというメーカーはとても洗練されたデザインの製品を作るイメージがある。一方で作り手のこだわりが込められた、実にマニアックな製品も生み出してきた。

かつて業績が長く落ち込んだ時期には、自由闊達な気風から生まれる個性的な製品が失われたこともあった。しかしここ数年は徹底してこだわることに重きを置いた製品が生まれるようになっている。オーディオ製品で言えば、それらには「シグネチャー」シリーズという名称が与えられているが、中でもウォークマンチームの作る製品は"異質"だ。

量産メーカーが手がける製品というよりも、少量生産ながら徹底的に質にこだわるガレージメーカーのようなコンセプトで徹底的に質を追いかける。本来は量産でなければ成立し得ないジャンルでそれをしている。

金メッキ処理が施された銅シャシーのNW-WM1Zは重く、高価ではあるが、それまでホームオーディオ向けだったさまざまなオーディオチューニングをウォークマンに盛り込み、熱狂的なファンを生み出した。

その開発チームは、敬愛の念を込めて「変態さん」とファンから呼ばれ、本人たちも「変態さん」と呼ばれることを楽しんでいる。なぜ"変態"なのかと言えば、それは通常ならあり得ない「それってオカルトですよね?」と言われるような音質対策を施しながら、細かく、粘り強く、音質を追求してきたからだ。

そこに経済合理性は、実はあまりない。結果的に採算が取れているかどうかは承知していないが、コスト回収を考えて開発していないことは明らか。そんなことがソニーという大きな組織の中で許されているのだから、そもそもソニーという会社のDNAに、オーディオにこだわる人種を受け入れる素養があるということだろう。

君子は豹変す。アプローチの変化で標準モデルの音が変わった

そんな変態チームが作るウォークマンのフラッグシップ機がAndroidを採用することでストリーミング配信にも対応した"マーク2"になった。機能的な変化や画面サイズの拡大なども重要ではあるのだが、実は初代機の音質チェック時に開発チーム、佐藤氏と音質について議論したことがある。その時のエピソードと、議論に対する答えが実は「NW-WM1ZM2」「NW-WM1AM2」の音質的な位置付けを把握する上でとても重要だったので、まずはそのあたりをお話ししておきたい。

初代機の発売直前、試聴して最初にコメントしたのは「より多くの消費者と接するだろうNW-WM1Aを音質的なリファレンスとして、その究極版としてNW-WM1Zを置く方が良かったのでは?」ということだった。

というのも筆者にはNW-WM1Aの音質が良いとは感じられなかったから。当時、他媒体の記事でもはっきりと書いている。

NW-WM1Aは、音の輪郭が明瞭に聞こえるが情報量が少なく、切り抜いたように明瞭な音像の輪郭は見通せるものの、音像の周辺にふわっと広がるべき空気、気配のようなものが薄い。バランス面でもドンシャリ傾向で、S/N感がよく帯域のエネルギーバランスも揃って聞こえるNW-WM1Zとは明確に異なる。

そこには"品位"の違いもあるのだが、明確に"質"が異なっていたのだが、それはどうやら当たらずとも遠からず。NW-WM1Zで音を作り込んだ上で、より低価格なWM1Aではどんな音の性格にしようかと悩み、最終的に落ち着いたのが品位の違いだけではなく、質の面でも異なるチューニングを施すという結論だったのだそうだ(という話は今回の取材で知ったのだが)。

そんな話の後、ウォークマンの音は少なからず変化し、中上位モデルのNW-ZX300が発売された際にはNW-WM1Z寄りの音作りになっていた(現在のNW-ZX500シリーズでも同様のチューニング傾向にまとめられている)。

……と、旧モデルの話を長々と書いたのは、新モデル最上位のNW-WM1ZM2では99.99%純度の銅素材へとグレードアップしたシャシーやキンバーケーブルによる内部配線、さらに金ハンダの採用など、さまざまな面で最高を追っているのは同じだが、音作りの考え方に関しては変化していたからだ。

標準モデルとなるアルミ削り出しシャシーのNW-WM1AM2で音作りを追い込んだ上で、上位モデルのNW-WM1ZM2では”物量”を投入することにより、そこからさらに音の品位を磨き込んでいる。その際に音作りは変えていない。もちろん同じではないのだが、価格や重さの違いを考慮するならば、NW-WM1AM2が極めて費用対効果の高い製品になったとも言える。

高橋氏も「ここまで近い音にするとNW-WM1ZM2を選んでもらえないかもしれない」との葛藤があったそうだが、それでも両モデルの音の質感を揃えるべきだと考えて追い込みを行ったと話した。

Android採用による音質面のマイナスは”ない”

さて、このようなわけで両モデルの位置関係は変化し、同じベクトルの音作りが行われ、ソフトウェアも基本的な回路も同じ。あとは投入する物量や部品グレードだけの違いとなった。だが、単に両モデルの位置付けが変化しただけではなく、両モデルともAndroidを採用しながらもLinuxベースの独自OSを使っていた従来機よりも音質レベルは上がっている。

新しい標準モデルのNW-WM1AM2は、従来の最上位だったNW-WM1Zと比べた時、揺るぎない低域の感触ではやや落ちるものの、音場の広さや音像のまわりに漂う気配、空気感のようなものがより色濃く描かれる。

このように書くと演出過多のまとわりつくような重さを想像する人もいるかもしれないが、決してそのようなことはなく、あるべき情報がしっかりと伝わってくるS/Nの良さが印象的。

これがNW-WM1ZM2になると、さらに低域が力強く高い解像力で描かれ、さらに伸びやかに音場が気持ちよく天井方向に抜けていく、実にスケールが大きく爽快な音へと昇華する。基本的な音の質感は同じだが、やはり品位は違うということだ。

AndroidをOSとして採用する利点は、日々進化する音楽ストリーミングサービスに対応するため。各社がリリースするアプリを利用可能にすることにある。一方で音楽データのデコードからDACにまで引き渡すまでの信号パスを完全には独自設計で開発できないという制約がある。


 最上位ウォークマン「NW-WM1ZM2 / WM1AM2」が飛躍の第二世代となった理由(本田雅一)

今回、マーク2になってLinuxベースの独自開発ソフトウェアからAndroidベースになったわけだが、Android採用による音質的なデメリットは、少なくとも専用アプリとしてインストールされている「W.ミュージック」を使う限りにおいてはないと感じた。

そもそもの話で言えば、Andoridで高音質を実現するというテーマをどう攻略するかは、すでに発売されている中上位モデルのNW-ZX500シリーズを開発する際の鍵だったわけで、そのNW-ZX500シリーズのアップデートを行う中で磨きをかけ、今回のモデルに反映させていると考えればいい。

Androidアプリでもハイレゾに対応するが、音質はアプリ、配信サービス次第

NW-ZX500シリーズは発売後のアップデートで、通常のGoogle Playアプリでも最終的なハードウェアに最大192kHz(48kHz)でオーディオストリームを引き渡せるように独自の改良が加えられた(一般的なAndroidではアプリ内はハイレゾ処理でもハードウェアへのインターフェイスではダウンサンプリングされる)。

Androidのソースコードを解析し、最小限の信号パスでハイレゾ対応アプリのオーディオストリームがウォークマンのハードウェア(DAC部)に届くようシステムのオーディオ処理にも影響を与えない形で実装している。ただし、NW-ZX900がAndroid 9ベースなのに対し、新製品はAndroid 11ベース。ソースコードの中身は全く異なるため、新たに解析しなおして信号パスを見直しているという。それに加えて専用アプリを使うことで、完全にLinuxベースのモデルと同等にまで引き上げるわけだ。

さらに専用アプリのW.ミュージックで再生する場合、マスタークロックを48kHz系と44.1kHz系、両方を再生しながら自動的に切り替える仕組みが導入されている。通常、スマートフォンなどはこうしたクロック周波数の切り替えを行うように設計されていないため、Android向けの汎用システムやソフトウェアを流用する場合は、いずれかで統一されることが多い。

一方でデジタル音楽ではデータサンプリング周波数の系統が混在する。CD向けやiTunes向けにマスタリングされた音源の場合、あるいはDSDから変換された音源は44.1KHz系だが、一般的なハイレゾ音源は48kHzの倍数となる。この系列がズレるとジッターという成分が増え、音が歪んでしまい結果として音質が低下するのだが、W.ミュージックならその心配はない。

ここまではNW-ZX500シリーズでも実現できていたが、NW-ZX500シリーズを開発した経験からわかっていたのが、スマートフォンにも通じるSoCから出る輻射ノイズなどへの対応だ。

元々オーディオ用に開発されたSoCではないため、ソフトウェアの動作状況でノイズの輻射も変化する。そこで開発陣は銅製のシールドを作り、SoCの上に覆いかぶせるようにしてノイズを封じ込めることにしたという。

ホームオーディオでもアナログとデジタルの回路、それに電源を分離して筐体に収め、その間にシールドを設置して最小限の隙間からカード電線を通すといった設計がされる場合があるが、同様のことを小さな筐体内で行っている。また、単に輻射ノイズを遮断するだけではなく、基板のGNDラインの取り回しを工夫し、Androidシステム系の電源ノイズがオーディオ系回路に混入しにくいよう工夫がなされている。

音質に関わるあらゆる要素を盛り込んだ

ところで敬愛の念を込めて「変態さんたち」と呼んだが、同じように面白がってくれる業界人は多かったようだ。それはコンデンサなどの部品を供給するサプライヤーにも及ぶ。

オーディオ向けサプライヤーとはいえ、音質だけのために部品のバリエーションを無闇に増やすわけにもいかない。しかしソニーのウォークマンチームが音質のためにあらゆることにチャレンジしているとわかると、サプライヤーが「こんなコンデンサーありますよ」「無酸素銅をリード線に使ったバッテリーありますよ」と持ち込んでくるようになったという。

餅は餅屋で、サプライヤーの方が選べる部品バリエーションの知識は広い。自分達が求める要素を5年前の製品で示したことで、サプライヤーが「値段はちょっと上がるけど」と持ち込むようになったわけだ。

Android化している(=本来ならノイズが増え、ソフトウェア処理でも不確定要素も増える)のに音質が向上しているのは、開発チームの熱量がサプライヤーにも伝播し、あそこに持ち込めば面白い結果が出るかもしれない、そんな期待感を持たれるようになったから、という側面もある。

オーディオ機器に限った話ではないが、サプライヤーが製品全体の質に与える影響は大きい。平均点を少し上回る程度の努力は報われやすいが、最高点を争うためのカロリーは大抵の場合、努力に見合う報酬が得られることはない。”自分たちのこだわりを理解してくれる人がいる”と認識されると、そのチームの製品は強くなる。

ストリーミングで試聴、良い音源を買う指標に

ということで、マーク2でさらなるシャシーの低抵抗化、電源強化、信号パスの最適化(ハンダには金を混ぜ、多層基板の貫通穴も埋める構造になど)、クロックの最適化(金蒸着の低位相ノイズなクロックジェネレータを部品メーカーが持ち込んだとか)など、もちろん設計レベルでの努力もあるのだが、全体をみると音作りのアプローチの違いと、サプライヤーが協力し、さらにチームが自信を深めて作り込んだことが、第二世代を飛躍させた要因になっている。結果的に音質に対しては極めて敏感な製品になったとも感じた。

W.ミュージックで再生した場合の音質は素晴らしいが、一般的なAndroidアプリでの音質は残念ながらW.ミュージックには届かない。NW-ZX500シリーズでも同じなのだが、より音質が研ぎ澄まされたことで、より違いが明確になった。

ノラジョーンズの「Don’t know why?」をダウンロードされたFLACのハイレゾデータ、Amazon Music HD、Apple Musicで聴き比べると、明らかにAmazon Music HDが歪みっぽく聞こえる。Apple Musicはクリアだが、声のニュアンスを伝える情報量はW.ミュージックには及ばない。

どれも元のマスタリングは同じはずだが、再生に使うアプリによって処理が異なるのかもしれない。ただしハイレゾ楽曲の傾向やCDとは異なるマスタリング、ミキシングの確認はできる。ストリーミングで日常的に音楽を聴きつつ、その中で気に入ったハイレゾ楽曲があればダウンロードしてW.ミュージックで聴くという使い方ができるのは便利だろう。

なお、多くの読者にとっては、より入手しやすいNW-ZX500シリーズがコストパフォーマンス、サイズ感の点で勧めやすいことは言うまでもない。しかしあくまでもポータブルプレーヤーでの最高を求めるならば、NW-WM1ZM2、NW-WM1AM2の試聴は外せない。

一度は聴き比べてみるだけの価値ある製品を6年ぶりに投入してくれたことを驚くとともに、今後も継続して高音質に取り組んでいただきたい。

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