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フラッグシップのその先へ。ゼンハイザーの新しいイヤモニ「IE900」は、まるで工芸品

基本性能を突き詰めに突き詰めた、極致がごとき仕上がり。

ゼンハイザーが、新しいインナーイヤーモニター「IE900」を発表しました。「IEM」とか「イヤモニ」と呼ばれるジャンルで、プロのアーティストや音質にこだわるユーザーに向けた高音質なイヤホンですね。

ゼンハイザーの有線イヤモニは、現状「IE300」「IE500 PRO」などがラインナップされています。今回の「IE900」は型番からも分かる通り、新たなる最上位ポジションになるモデル。

本当なら製品発表のイベントでハンズオンをお届けする予定だったのですが、このご時世なので実機を貸していただくことに。取り急ぎ、ファーストインプレッションをお届けします。

美しきアルミの手触り

筐体は単一ブロックから切り出されたアルミニウム。堅牢さが手に伝わってきますねぇ。工芸品らしい雰囲気というか、IEMって中身が見えるスケルトンなものが多いじゃないですか。そうしたガジェッティな見た目ではないです。

内部には3つのトリプルレゾネーターチャンバー(帯域ごとに設けられた3つの溝)とアコースティックヴォルテックス(エアフローを制御する穴)が採用されているそうな。これらの加工は寸分たがわぬ精度で削り出され、一定の周波数のマスキング、歪みの抑制に一役買っています。しかも機械で削り出したあとは手作業でチェックもしてるそうな。クラフトマンシップの結集じゃん…!

MMCX端子で、同梱の2.5mmバランス、3.5mmアンバランス、4.4mmアンバランスケーブルと交換可能。しかし、これはゼンハイザー独自形状の端子で他社ケーブルとは互換性がありません。そのかわりにケーブルは引っ張っても簡単には抜けず、堅牢性や安定性はかなり高いです。

周波数特性は5〜48,000Hz、インピーダンスは18Ω、トランスデューサ(ドライバー)径は7mm、全高調波歪<0.05%。ケーブル外装はしなやかなパラアラミド繊維にTPUコーティング。

フラッグシップのその先へ。ゼンハイザーの新しいイヤモニ「IE900」は、まるで工芸品

奏者が「視える」イヤホン

装着するとこんな感じ。耳に差し込む部分がやや顔側に奥まっているためか、耳にかけたケーブルに荷重がかかっても、差し込んだ部分がかえしになって抜けにくくなってます。特別に音導管が長いってわけでもないので、見た目以上にフィット感が良くて驚きました。頭を振り回してもズレない。

音質について。解像性能や定位表現が素晴らしいです。マイクが捉えたであろうアーティストの歌声が減衰する様子、そのマイクと口との距離感までもが察せられます。クラシックを聴けば、コントラバスがステージ端にいるんだなーというのまで完全に聞こえます。いや、むしろ視えます。ハイレゾ音源を視聴した際は、ダイナミクスの豊かさにも驚かされました。

特性は高域の精緻さが抜きん出てる印象。ついピアノ曲や女性ボーカル曲が欲しくなりますね。一方で低音はやんちゃにならないラインに留めているので、ロックやダンスミュージックを聞いた際の迫力という点では物足りないか。このへんはイヤモニゆえの性格でしょう。

あと、「IE900」をPCに繋いでYouTubeを見ていた時に、キャンプ系YouTuberの動画を見てたんですけど、カメラと演者の距離感や風の強さまでも音から感じられたんですよ。普段ならまったく気にならなかった、そのレベルまで音場再現ができてしまっている。まるで耳をそこに置いたかのよう。

モノとしても良すぎて

付属のポーチ、中央のロゴはこれ金属なんですよ。もうこの段階でモノとしての品格が違うじゃあないですか。背面にも同じような金属プレートがあり、シリアルナンバーが刻印されています。それくらいのモノなのですよ。

イヤーピースは通常のシリコンとウレタン系の2種類を同梱。で、下にあるピンのようなもの、これはイヤーピースを掃除する際に使う器具なんです。イヤーピースの軸の着脱や、目の部分に詰まったゴミをかき出すのに使います。こういうメンテナンスを見据えた装備も嬉しい要素。

アルミ筐体な部分もそうですが、確実に所有欲を刺激してきますな、これは。ポーチを手に取るだけでもニヤっとしそうだし、さらにそこから素敵なイヤホンが出てくるとなれば。ゼンハイザーらしい、高級品だけどブルジョワなアピールはしない、その哲学を随所に感じます。

いつか手にしたい、このレベルの音

ゼンハイザーのイヤモニは、エントリーラインの「IE 40 Pro」が今年3月に販売終了し、後継「IE100 Pro」に置き換わりました(単体販売はまだ)。イヤモニ界隈としてまだまだ伸び盛りなゼンハイザーが、今回の「IE900」で現段階の全力投球を見せてくれたように感じます。

最高の音質と最高の仕上げ。そのお値段は、税別16万2800円。耳と指先で感じたこの満足感を思えば、職人技への対価としては余裕でうなずけてしまう価格かなと思っちゃいましたよ、えぇ。音質への矜持を体現した、無二のイヤホンかと。

Photo: ヤマダユウス型

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